満月の夜、最期を告げた

「そんな所にいたら、」
堕ちてしまうよと。少女、ラナは言う。
「良いんだ。その為に此処に居るんだから」
「どういう事?」

「もう飽きた、この世界の仕組みに」

自虐的な笑みを浮かべた少年、ウィルは呟いた。
紅の月が目の前に見える。
とても高い城のような建物の、屋上。
其処は、煌びやかに輝いていた本来の使われ方はされていなかった。

妖しく光る、紅の月に照らされる、
崩れかけた≪廃墟≫。
「エンジェラに叱られるわ」
「まだマザコンが直ってないのか、ラナは」
「ウィルが反抗期なだけでしょう?」

下界に居る人間達の言葉で言う、天使。
ラナやウィル、それに・・・・・・この場所、この地域、この領域。
住む人全てが、天使。人間など一人も存在しない、天界。
殆どの建物は白、空も青空ではなく、白。澱みの無い、純白。
服装も、持ち物も、まるで規則のように白で埋め尽くされていた。

一度でも、人間の住む下界を見てしまえば、此処はあまりにも単純で、つまらない場所だった。
そんな天界で、唯一の、白では無いもの、場所。
それが、二人の居る≪廃墟≫だった。


小道を抜けて

逃げましょう

白き世界の幕を捨て

血染めの帯で目を隠し

向かう先は唯一つ

純白の空が黒になり

無地の空には紅い月

王無き城に着いたなら、

時計を棄てて一休み

城が廃墟になったとき

一時は永遠に変化する

廃墟が楽園になったとき

小道は消えて

帰る道など闇に隠れる


「・・・・・・覚えてるのか、その唄」
「当たり前じゃない。エンジェラが教えてくれたのよ?」
「でも後悔してるだろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、ね」
崩れた建物をぼうっと浮かび上がらせる紅い月に見惚れて、時間を忘れてしまう。

ウィルもその一人だった。
唄から、この場所を知ってしまったから。
天界の仕組みに飽きた、一人。天使が少しの寿命を代償に人の願いを叶える仕組み。
まるで悪魔のようだと思った。悪魔は願いを叶えず、寿命だけを奪っていくが。
代償なんて、ウィルはいらなかった。それはラナも同じだ。

それに。

「願いなんて、自分で叶えるものだ」
「それは、そうかもしれないけど・・・・・・出来ない事を叶えるのが天使の仕事でしょ?」
「俺は他人の為に動くってのが嫌いだから」
「でも一応今まではしっかりやってたじゃない」
「エンジェラが怖いからな」

ラナは溜め息を吐くと、ウィルの横に腰掛けた。
紅い月は、近くにあるのに手を伸ばしても届かない。
そこらの宝石なんかよりよっぽど美しいと、誰もが言う。

見惚れてしまっていた。
ウィルも、ラナも。
いつもなら一人見惚れているウィルを、呼びに来たラナに引き戻される。

今日は違った。
二人とも紅く光る月に見惚れて。
小道の奥から聞こえる銃声も。
天使達の叫び声も。

廃墟が崩れる音も。

まるで風のように。
空気のように。
全く感じず。
堕ちる。堕ちる。堕ちる。

「ねえウィル」
「何だ?」
「月が、遠く、ないかしら」

「気のせいだろ、ラナは馬鹿だな」

そうかも、と。
消える意識の中で。

天使の翼の羽根が、一枚、また一枚と、


───剥がれ落ちる気がした。














「みんなで100題チャレンジ!企画」参加作品です。
テーマ「廃墟」を選んだので、個人的に好き&廃墟に似合いそうな月を出してみたり・・・。天使は好きです。翼ってカッコイイですよね。お読み下さり感謝です!
inserted by FC2 system